あらすじ
あんたのことをぶっ潰してやる!
東京五輪金メダリストの大和エイジは、ロス五輪を目指して競技復帰を決意。そこに立ちふさがるのは、パリ五輪金メダリストでエイジに敵対心を燃やす姫川真周だった。新ルールへの適応に苦しむエイジに対し、順調に勝利を重ねる真周。
そんな中、エイジの専属カメラマン、通称「フィルマー」の与野丈太郎は、行方不明のエイジの両親を探していた。意外な人物がエイジの父親と判明し、与野は新たなトラブルに巻き込まれる。
一方、自分の撮影のために与野がカメラマンとして名誉ある仕事を断っていたことを知ったエイジは葛藤。二人の間に思わぬ亀裂が入り始める……。
大人気、スケートボード小説第2弾! 【PHP研究所】
感想
良かった……いやほんとめっちゃ良かったし、世界の美しさを思い知れといい前の巻の夜と跳ぶといい、エモがすげえんだよな。文章のエモみがすごい。
前巻から数年経過しているために二人の不理解からの理解という意味では薄まっているものの、新キャラ登場やエイジの秘密がわかったりとどんどん面白かった。
与野のおっさんが良い人でさぁ……
今回はエイジが参加しなかったオリンピックの金メダリストであるマシューがエイジに宣戦布告してきたり、エイジがそれをまるで相手にしなかったり、トモの母親がトモを家に引き取ろうと養護施設へとやってきたりとあれこれ盛りだくさんの巻だった。
ただそれ以上に、与野のおっさんが拉致られたり事件に巻き込まれたりと事件関連が多めの巻。与野のおっさんお疲れ様です。
それにしても与野のおっさん、この巻でもまっとうな大人らしさを出してて、この人って人間として改めてすごい。
トモらのいる養護施設には不定期に顔を出して写真撮影の手伝いをして職員さんとも仲良くなる社交性があり、トモが半家出状態で飛び出した時に自分とエイジという成人男性で保護すると誘拐にあたるからと迷わず元妻を頼る思考力がある。トモが悪質そうな義父(にならないでほしいおっさん)に触られているときは的確に証拠写真を撮影するだけの必要物を判断する能力がある。
なんだかんだマシューにも懐かれ、呼び出されてあれこれ無駄話に付き合わされる立場となりつつも、マシューが帰宅したら親御さんに「息子さん帰宅しましたよ」と連絡するだけの大人としてしたほうが良いことを全うするだけの誠実さもある。
ついでに1巻でエイジんちに盗みに入った元フィルマーにはいい感じのカメラマンを紹介して仕事にありつけるようにしている。
なんつーか、この人めっちゃ面倒見が良くて、頼れて、なにかあった時に助けてくれそうな判断力もある良い大人なんだよなあ……。子供たちから舐められてるようにも見えるが、それって同時に気軽に物事を相談できてしまう相手でもあるんですよね。
しかもこの良い大人、別れた元妻と未だ問題なく親しくしており、一緒に飲む仲でもある。元妻は週刊誌の編集者という立場を活かしてなにかあったときには協力してくれる。元妻に引き取られた娘も懐いてくれている。
いやー……すげえよ……すげえなこのおっさん……。
とはいえ妻とは別れたわけでとは思うものの、完全に「仕事と私どっちが大事」で双方ともに仕事をとったからみたいな関係性なのもすごい。このあたりを元妻がエイジに説明するところ好きだな。子供であるエイジには二人の関係性や別れる理由は理解できないだろうとはわかりつつ、それでも誠意を持って説明する元妻も、与野と夫婦だっただけあって人が良い。ただお人好しという人の良さではなく、社会人として面倒事も経験したうえでのキレッキレながらも人が良いのがまた。
優先順位の低い人
作中で何度か『自分の優先順位が低い』と言われているがそのとおりで、エイジとの初遭遇のときは自分よりカメラを、前巻で金メダルが川に落ちそうなときは金メダルを、今回も『政治家の隠し子』というネタやそれを告げる自分の身に危機が訪れるかも知れないなんてことよりも『エイジが親に会えたらと金メダルを取ったのだから、その願いを叶えてやりたい』という純粋な願いをと、与野は自分の身よりも他のものを優先してきた。
別に自己犠牲したがり体質とかじゃなくて、言われているとおり優先順位が低いだけなんだよね。それ以上に優先してやりたいものがあるからこそそちらを優先し、結果的に自分の身が危険になる。でもそれを全く後悔してなさそうなところが、このおっさんよぉ……という気分になってしまう。
エイジもそりゃあ最初は困惑するし、現在でもこのおっさんよぉ……みたいな気分にもなる。
その『自分の優先順位が低い』が原因でエイジとの関係は大きめの亀裂が入るが、これはなんともなぁ……。どちらの気持ちも分かるからこそ難しい。
エイジとしては、自分のフィルマーとして撮影するために与野がでかい仕事を蹴って側にいたというのは腹が立つ。自分のせいで与野が犠牲になったというのが嫌だ。そんなの重たい。
でも与野からしたら、こんなキラキラして未来ある子供の姿をスポーツカメラマンとして撮っていたい気持ちもめっちゃわかるんだよな……。そしてそれを知ったらエイジが負担に思うだろうから絶対に知られたくないというのも。
このあたり、完全にどちらが正しいというわけでもなくて難しい……となってしまった。
親子でもなければ友人ともまた違う関係
エイジと与野の、親子でもなければ友人ともまた違う関係性が良いんだよね。1巻で言われていたとおり仲間というのが近いけれど、でも与野は普段はエイジに舐めた言動行動されていても決して彼を対等とは見ていない。いや、対等とは認識してるかもしれないけれども、守るべき子供として見ている。もうエイジは20なのに。
それって出会ったのがエイジが18のときだからっていうのもあるし、エイジの無鉄砲な精神性をずっと見つめてきたのもあるだろう。私らがいつまでも神木隆之介が義務教育受けてる子供のような印象を持ち続けているのとも同じですよ(仮面ライダーアギトの謎の少年のイメージが強すぎる)。最初に受けた印象はずっと心のなかに持ち続ける。
でも、与野はエイジの父親じゃない。父親のように無償の愛を与えるわけでもないし、何かあったときに父親のように自らの損得考えずにすべて庇うわけじゃない。大人としての倫理と意識で守るけれども、それは父親代わりとは違う。エイジにはちゃんと父親がいて、けれどもそいつはエイジを自らの子としては認識していない。
このあたり、難しいと同時に二人の関係性てめちゃエモ……となりました。いやエモで終わらせて良いわけがないんだけど、そういう言葉にならない関係性ってやっぱエモなんですよ。
なんというか、めちゃくちゃ萌えた話って人に見せられる感想までまるめるの難しいな……。